貞昌寺は室町末期(1558-1570)に創建された浄土宗の寺院である。庭園「一文字の庭」は江戸前期の茶人であった野本道玄(げんどう)によって作庭された。
庭園に足を踏み込むと芝庭が広がる。左手に岩木山を模した築山。右手にも築山があり、築山の手前には流れを造っている。役所の公式サイトによると、岩木川と津軽平野の風景を描写した縮景庭園と表現されている。なるほど、いわれてみればそのような地割りだ。
江戸前期の茶人であった野本道玄(げんどう)によって作庭された庭園であるが、庭園に芝生を初めて用いたのは小川治兵衛(おがわ じへえ) 通称、植治(うえじ)とも呼ばれる明治時代の作庭家のため、作庭当初は芝庭ではなかっと推測される。
現在の庭園は、昭和50年から20年の歳月をかけて平成に復元されたものである。
庭園西部には、岩木山を模した富士山型の築山を配している。個人的には築山の植林がない方が、築山の輪郭がはっきりとして岩木山らしく良いと感じた。
芝庭と庫裏の間には内庭を造っており、江戸末期から津軽地方に広まった庭園の流派である大石武学流庭園の要素を垣間見れる。それは座敷から続く飛石であり、途中で分岐して右手に蹲踞(つくばい)、左に二神石を据えているところである。
蹲踞(つくばい)は、大石武学流庭園では実用ではなく観賞用の大型なものであるが、こちらは実用サイズである。
「二神石」は七福神のうち2つの神に見立てたともいわれ「二神前」と呼ぶこともあるが、こちらでは1石しかないようだ。
庭園東部の築山は飛石で苑路が設けられている。
築山をぐるっとまわって芝庭に戻ると、北側の築山には小さな2段落としの滝石組がある。
滝石組のある池泉には洲浜も造られている。
貞昌寺には県指定名勝の貞昌寺庭園がある。近隣には徒歩圏に4ヶ所の庭園があるが、事前連絡が不要となる唯一の庭園である。また本庭園を作庭した茶人・野本道玄(げんどう)の作品は、弘前城植物園 三の丸庭園でも見学できるも合わせて訪れよう。
○ | 大石武学流庭園の多い弘前エリアで、芝庭を中心としつつも大石武学流庭園の要素が入り交じった異なる作風の庭園を楽しめる。 |
× | 岩木山を模した築山の植林がないほうが美しいと思われる。 |