名古屋の資産家であった古川為三郎の旧邸。本邸は昭和9年(1934)に建築されており、古川為三郎が「創建時の数寄屋姿をとどめる邸宅を皆様の憩いの場に」という遺志により、平成15年(2007)から古川美術館分館 爲三郎記念館として一般公開されている。
東山線の栄駅から3駅先にある池下駅 徒歩2分の場所に、まるで隠れ家のような庭園が残されている。母屋「為春亭(いしゅんてい)」からの庭園観賞はもちろんのこと、庭園内の散策もできる。まずは為春亭から庭園を眺めていく。
爲三郎記念館は斜面に邸宅を建築しており、谷となっている地形を利用して東西に流れを設け、邸宅は一段高い場所に設けて、渓谷を見下ろすような景観を造っている。また巨石による縁先手水鉢が印象的である。
右手に縁先手水鉢があり、写真中央部に流れを通し上流は滝石組となっている。流れの水流は少ないが、石を敷き詰めていることで枯流れのような雰囲気も生み出している。
視線を落として撮影してみる。周辺は植栽に囲まれているため、名古屋中心部ながら京都にいるような感覚を覚える。
母屋を離れ庭園を散策していく。まずは流れの上流にある滝であり石積みを活かして滝石組のような佇まいだ。
三光燈篭のような意匠をもつ置き灯籠。三光燈篭とは三光灯籠とは太陽と月と星という三つの光りを意匠化したもので、月と太陽は横並びになっており、桂離宮やウェスティン都ホテル京都の葵殿庭園でみられる。本庭園の置き灯籠は星の反対側に太陽の窓があり、若干意匠が異なるが基本的には同系統の置き燈篭と考えてよいだろう。
石積みを削って、四方仏の手水鉢を埋め込んだと思われる。一体感が見事である。
飛石の先には切石の延段。
敷地西部には茶室「知足庵(ちそくあん)」がある。露地門としての中門を設けており、主人の迎えをまつ腰掛け待合、そして雪隠(トイレ)がある。ちなみに茶室に付属する雪隠は実用的なトイレではなく、語源としては中国にある雪隠寺の和尚がトイレ掃除で悟りをひらいたということからという説がある。
茶室「知足庵(ちそくあん)」には躙り口(にじりぐち)があり、にじり口の向かいには蹲踞(つくばい)を設けて、茶室の入室前に身を清める場所として利用する。
茶室「知足庵(ちそくあん)」の内部。尾張ゆかりの大名茶人 織田有楽斎(うらくさい)が建築した国宝「如庵(犬山市)」に想を得た茶室とのこと。特に床脇に斜めの壁を造り、三角の鱗板を床にはめた趣向は如庵を模している。
再び母屋に戻り中庭を撮影。巨石の沓脱石と竹により狭い空間ながらも印象的な中庭となっている。
母屋には「数寄屋 de Café」がありお好きな飲み物と御菓子をいただける。2022年頃までは爲三郎記念館の入館料に呈茶料金が含まれていたが現在では別料金となっている。なおこの空間は通路であるため、カフェの利用なしでもこのような写真は撮影できる。
爲三郎記念館の案内図 [ 案内図を拡大する ]
○ | 名古屋市内に本格的な茶室と流れをもつ庭園を見学できる邸宅庭園。カフェとしての利用もでき穴場的なスポットといえる。 |
× | 特に見当たらない。 |