桂離宮は修学院離宮を造営した後水尾上皇(ごみずのお)の叔父にあたる八条宮 智仁親王(ともひと)によって造営。後陽成天皇(ごようぜい)の弟でもある。江戸初期(1615年頃)に造営開始して、1622年に現在の姿となり、建築当時の建物が今も現存する貴重な庭園である。明治16年に宮内庁所管となり桂離宮と称される。作例家は小堀遠州、その弟子の玉淵坊など挙げられるが、確かなことは分かっていない。また、復元整備には作庭家・森蘊(おさむ)が関わっている。
1枚目の写真「住吉の松」は、視界を遮るかのように松があることより「衝立の松(ついたてのまつ)」とも呼ばれる。見えそうで見えない、苑路散策に期待感を持たせる演出である。さて、日本庭園の最高峰に君臨する「桂離宮」。紅葉シーズンに予約を行い12時のツアーに参加したが、午後は全て当日枠が残っていた。係の方に伺うと珍しいとのことであるが、2018年の有料化に伴って地元で何度も通っている方が減ったためだと推測する。
桂離宮の大きな魅力のひとつは延べ段にある。ツアー開始してすぐに御幸道と呼ばれる苑路にでる。ここで注目したいのが「霰こぼし(あられこぼし)」という手法の延段(敷石)。平らな面を路面になるように敷き詰められている。香川の興願寺にある「霰こぼし」は50cm四方並べるのに職人1人が1日がかりと聞いており、実に大変な労力であることが分かる。また、広大な敷地で落葉時期にもかかわらず、宮内庁によって実に綺麗に手入れ施されていることにも驚く。
「松琴亭」で茶会が催される際の待合になる外腰掛けには「行の延段」がある。これは自然石と切石がミックスしたもので、切石だけのものを「真の延段」、自然石だけのものを「草の延段」という。これは書道の「草書」「行書」「楷書(真書)」に習うものである。延段については笹離宮(長野)の記事を参考にしてほしい。ちなみに、これに習うと「霰こぼし(あられこぼし)」は「草の延段」に分類される。
桂離宮で最も美しい景と感じるのが、この岬灯籠付近である。水際を美しく魅せる技法の洲浜の先には、可愛らしい岬灯籠を据えている。その奥には、切石の反り橋「蛍橋」、中島、「月見橋」(写真では死角であるため後述)と並び、その一連を「天橋立」に見立てている。
天橋立に見立てた一部の中島。反り橋「蛍橋」の橋添石には意欲的な立石を据えることで景観を引き締めている。
この付近には美しい灯籠のひとつ、織部灯籠がある。千利休と共に江戸時代に茶の湯で大成した古田織部が考案した灯籠である。この織部灯籠は切支丹灯籠(キリシタン灯籠)とも呼ばれ、竿にキリスト像が彫られているのが特徴である。これは江戸時代初期のキリスト教禁止令後も、密かに信仰を続けていた隠れキリシタンの信仰物だった。
織部灯籠の反対側の景。ツアーでは紹介されず、サイトなのでもあまり紹介されないポイントであるが、力強い護岸石組で渓谷のような構成である。ここだけでもひとつの庭園として成立している。このように、桂離宮ではどの方向を眺めても素晴らしいというのも大きな特徴だろう。
桂離宮で最も格の高いとされる茶室「松琴亭(しょうきんてい)」付近からの景観。
天橋立に見立てた中島を反対側から眺めると、前半の写真では死角になっていた平橋「月見橋」が姿を魅せる。
桂離宮で一番高い場所にある「賞花亭(しょうかいてい)」から石段を下りると、180度見渡せるポイントがある。参加したツアーでは「ここでは一人5秒の撮影タイムを設けます(笑)」と言われ全方向を連写。写真は神仙島と呼ばれる中島を望む。神仙島とは、不老不死の仙人が住む島とされる。
茶室「笑意軒(しょういけん)」の麓には、船着き場の照明用の「三光灯籠(さんこうとうろう)」がある。つまり昔は、舟で庭園を巡る池泉舟遊式庭園であったことがわかる。三光灯籠とは、太陽と月と星という三つの光りを意匠化している。この場所は解説員によって説明されるが、望遠レンズでないと撮影できないぐらい遠い。とても目立たなく小さい灯籠であるが、他では見られない貴重な灯籠である。(参考 焦点距離300mmで撮影後トリミング)
説明員が日本一美しい雪見灯籠と解説していた。
参観の最後は書院玄関前の「真の延段」。重森千靑氏によると、「私が感動させられるのは、飛石と門の間に設けられた四個の正方形の石である。この切石を挟むことで、真の飛石は、左斜めに大きくふれている。しかも四個の切石は、わずかに間隔を置いて据えることで狭い玄関前の敷地に遠近感がもたらされる」と解説している。そういえば、桂離宮では御幸門などでも遠近法を使って奥行きを生み出しているポイントがあった。大名庭園のようなな広大な敷地をもつ庭園では、単調になりがちであるが故に、細やかな工夫がされていることを感じる。
桂離宮案内図と観賞ポイント。(パンフレットに加筆) [ 案内図を拡大する ]
○ | 1周60分のツアーにも関わらず、同じような光景には出会わず、どの方向をみても破綻しない美しさ。また「霰こぼし」の延段や、控えめにして上質な雪見灯篭、織部灯籠、三角灯籠、三光灯籠などの石灯籠で揃えられている。 |
× | 特に見当たらないが、ツアー形式のため立ち止まってゆっくりと観賞はできない。 |