玉田寺は日本初の作庭家ともいわれる臨済宗の禅僧・夢窓疎石(むそう そせき)の孫弟子である南溟禅師(なんめい)が室町時代に開山した寺院。その後焼失し、江戸時代初期に現在地で再興。本堂裏には江戸時代中期に作庭されたと伝わる枯山水が残る。
「ひょうごの庭園(著:西 桂)」で兵庫県の日本海沿いには一般公開していないが事前予約で拝観できる古庭園が点在していることを知り、2022年の紅葉シーズンに予約をして拝観させていただいた。若いご住職が書院を開けると、見事な枯山水が広がっており、思わず声が漏れた。
石組が少ない庭園に心躍ることは少ないが、こちらはひと目見て心が躍る。なぜだろう。苔の美しさ、山燈篭、奥行きのある地割り、全てが組み合わさって魅力的な枯山水となっている。
本庭園は裏山の崩し岩を削ったもので、上下二段式になっている。二段式の庭園は沢庵和尚ゆかりの寺として知られる宗鏡寺(兵庫県豊岡市)が挙げられるが、宗鏡寺ほどの高低差はない。
庭園の正面に石灯籠を据えている構図は好みではなかったが、玉田寺では山燈篭が枯山水の引き立て役になっている。
連山風の石組の中央に据えた山燈篭は自然石風な岩肌であり、かつ笠も苔付き風合いも良く、周囲の石組に違和感なく溶け込んでいる。これが山燈篭が枯山水の引き立て役になっていると感じた理由だろう。
上段と下段の高低差を活かして枯滝石組を設けているが、分かりにくいので次の写真で図解してみると、
このようになっている。右手に枯滝石組を設け、先ほどの連山風の石組と対峙している。枯滝石組の上段には遠山石を配しているが、手前の刈り込みで視界が塞がれている。本庭園で唯一残念だと感じたところだ。
枯滝石組と遠山石を望遠レンズで撮影。枯滝石組は垂直に落とさている。遠山石は頭の部分だけ僅かに見えているが、苔付いているため山麓に溶け込み分かりにくい。
角度を変えて撮影すると、写真中央部に遠山石を配しているのが分かるだろうか。
先ほどの写真を少し引いて撮影。
写真中央の手前が庭園のビューポイントとなる礼拝石であり、その先にある横長の平石が座禅石とのこと。ただ玉田寺庭園は庭園内に立ち入りはできない。
斜めからの視点で額縁庭園を撮影。
玉田寺には子猫が沢山飼われており、子猫が書院にも遊びにきた。かわいい・・・
私一人の拝観で、全ての雨戸を開けていただきありがたかった。山陰エリアには名園が点在するが、石組が少ない庭園のなかでは間違いなくトップクラスの名園である。
○ | 上下二段の地割りの立体的な枯山水に、連山風の石組と一体化した山燈篭。シンプルにして見とれる名園である。 |
× | 遠山石が刈り込みにより死角になっているのが唯一の心残り。 |