昭和61年(1986)に新居町(現在:湖西市)に老人福祉センターが竣工。その時に中庭に「昭和の小堀遠州」と称えられた作庭家・中根金作(なかね きんさく)によって作庭された枯山水がある。
高齢者の健康増進施設で大広間や囲碁スペースなどがある公共施設に、中根金作の庭園があることを知ったのは、Facebookで「湖西市新居・中根庭園を研究する会」を偶然目にしてことだ。平日のみの会館であるため、なかなか訪問できなかったが、ようやく今回実現できた。
今回は、事前に中根庭園を研究する会の代表である吉元洋美さんに見学連絡して、訪問するとご本人様がいらっしゃてご案内いただくことに。軽快なトークで湖西市と中根金作のお話をしていただいた。まずは、浜名湖をイメージした白砂が広がりをみせている。砂紋で波を表し、新居町(現在の湖西市)の土地柄を表していておもしろい。
白、青、茶色と色の異なる巨石を使い、渓谷から大河へ流れ込む様子に見立てている。不要な植栽を伐採することで石が主役となっている。切石による石橋は、かつての浜名橋に見立てている。浜名橋は、平安時代に架けられた大橋であり、京都の宇治橋、山崎橋、滋賀の瀬田橋と並ぶ四大橋であった。ただ、本石橋には安定感を生み出す橋添石が、右奥に低い1石しかないこともあり、やや不安定さを感じてしまう。
角度を変えて撮影。奥の建物は入浴施設であったが2018年に終了。池のような露天風呂にも中根金作の枯山水が残っている。子供のプレイパークなどにして、高齢者と子供が交わるスペースになったら元気になる空間になるだろうなぁと想像した。
橋を潜った奥は芝生が生えてきたことので、剥がして白砂に戻す作業中とのこと。時間の経過と共に変わってしまうことが、庭園では良くあるが、こちらは吉元さんの指導により当時の姿を維持しようと尽力されている。奥の築山頂部にある天を突くような立石は、私は蓬莱山と推測している。蓬莱山については後述。
先ほどと反対側から撮影。本庭園の特徴は枯山水を取り囲むように施設が造られている空間設計である。4面室内から庭園を眺められるところは少なく、ぱっと思いつくのは京都の建仁寺ぐらいであり、この規模感での4面室内観賞は最大級だろう。
本庭園は資料が残っておらず、役石が明確に分かっていないが、吉元さんの話では「老人福祉施設という側面から、中根さんは鶴亀をイメージしていると思う」と。私も彼女の推測に賛成だ。その上で私なりの勝手な推測を。まずは左右の築山で鶴島と亀島を造っている。赤マーカー&赤字で図解した。山形の石は羽石とみた。もうひとつの推測は、鶴亀両用という見方だ。青マーカー&青文字で記載したが、全体を亀島として、右が亀頭石で左が亀尾石。その亀に鶴に見立てた松を植樹している。松は長寿のシンボルとして鶴に見立てられることが多い。鶴亀両用形式では、名古屋の徳川園がある。そして、緑マーカが蓬莱山であり、不老不死の妙薬があるとされる伝説上の山で、長寿を願った代表的な庭園要素が盛り込まれている。
巨石の間は渓谷を表現しており、こちらも芝が生えてきたので、剥がして白砂に戻すとのこと。
西側から撮影。東西のしっかりした石組に対して、なだらかな野筋がゆとりと安らぎを感じさせる。
4面から眺める庭園で、建築物に囲まれているため晴天時は陰影がでやすい。曇り空や、雨で石がしっとりとする雨天がお薦めだ。
室内の雰囲気。公共施設であるため、どなたでも利用できるが、訪問時は受付に庭園見学をしたいことを申し出よう。
○ | 2019年から毎月ボランティアで草引きをしつつ、当時の姿に近づけるよう整備し美しさを保っている。また雨天でも全方向から枯山水を楽しめるのがありがたい。 |
× | 特に見当たらない。 |