萬葉植物園は昭和7年(1932)に開園した「万葉集」にあらわれる植物を植栽する日本で初めてつくられた植物園である。令和7年(2025)に春日大社第11代宮司・花山院弘匡(かさんのいん・ひろただ)が作庭、京都芸術大学名誉教授 尼﨑博正氏によって監修された神庭が完成した。
2025年に完成した神庭は春日大社の景観を描く春日宮曼荼羅(かすがみやまんだら)をイメージしたものだ。霰こぼしの延段と2つの築山で、春日大社へ向かう表参道と御蓋山(みかさやま)と春日山を見立てている。
境内周辺で採掘した三笠安山岩による立石で、春日宮曼荼羅に描かれている文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)、薬師如来、地蔵菩薩、十一面観音に見立てている。
作庭家ではない宮司が設計した枯山水は、表参道と築山の具象的な要素と、立石による神を表現した抽象的な要素が組み合わさった前衛的なものだ。
傾斜角度が強くなった「強角度斜石手法」なども見事だ。左が御蓋山(みかさやま)、右が春日山。
藤霞殿の庭園として7年の歳月をかけて造園してきた神庭。左手には藤棚があり、4月中旬から5月初旬頃にかけては彩りも美しいだろう。ちなみに表参道とは、一之鳥居から萬葉植物園の南側を経由して二之鳥居へ向かうルートであり、具体的な地図はこちらで紹介している。
護岸処理も美しく、竹で編んだ筒に石を詰めている。
同様の意匠は、京都南禅寺界隈にある国指定名勝「對龍山荘(たいりゅうさんそう)」でも見られる。
延段も石を縦に並べ膨大な手間をかけた美しいもの。近づいてみることができないため、望遠レンズで撮影しているが、このようなところまでこだわり抜いたことにより、7年という歳月が必要だったのだろう。
切石と延段は、幾何学模様に配置され、永遠のモダンと称される庭園を設計する重森三玲に通じるものがある。
神庭は藤霞殿の南庭となっており、遣水も設けられている。
別角度から築山を撮影。写真中央の築山は御蓋山(みかさやま)であり、その左手(正面からみると奥)にある築山が春日山となる。ちなみに若草山(三笠山)は、春日山の北側にある山で、若草山からの夜景は新日本三大夜景のひとつとされる。
表参道と神に見立てられた立石。
鎌倉時代に建立された重要文化財の旧春日大社板倉「丸窓」。当初は春日大社境内にあり、その後奈良県に売却されて奈良公園の浅茅ヶ原にあった。しかし管理の問題から、令和3年に萬葉植物園に移築され、126年振りに春日大社へ里帰りとなった。
| ○ | 具象的な表参道と春日山と御蓋山(みかさやま)、立石による抽象的な神の存在を表した神々しい石庭である。 |
| × | 特に見当たらない。 |