クラシックホテル犀北館に重森千靑(ちさを)氏によって作庭された。千靑氏は モダンな庭園造りで知られる日本庭園史の研究家・重森三玲(みれい)の孫にあたる。令和元年(2019)より着工して令和2年(2020)に完成。
庭園は3つのエリアに分かれるが、主庭となるのは写真の西庭である。まず目を惹くのが天を突くような立石で構成された枯滝石組だ。事前に写真では見ていたが、実物を目の当たりにすると、その躍動感に感激を覚える。
注目したいのが水の流れを表現した「鱗敷(うろこじき)」だ。薄い石を重ねるように並べ急流を表現しており桃山時代に考案されたものだ。長野県産の良質な石を入手できたことで、鱗敷(うろこじき)が実現できたとのこと。
枯滝石組は三段落としとなっている。最初の2段は集中的に組んだ石組の中で表現され、その後、水分石とも鯉魚石とも受け取れる石を配して鱗敷へと導かれる。最後に弧を描くような石に行き着き三段目となる。この弧を描くような石は飛石の踏分石として利用されたものだ。鯉魚石については説明を割愛。山口市の常栄寺 雪舟庭の記事を参考にして欲しい。
続いて、紀元茶寮前と呼ばれるエリア。その奥には「東庭SEIJI前」と呼ばれるエリアである。東庭SEIJI前は窓越しのみの見学となる。白砂敷きに沿って洲浜を作り、川の流れを表現している。
枯滝石組は合計13石で構成されいる。こちらも三段落としとなっており、鱗敷ではなく黒玉石を敷いている。
再び西庭へ。こちらにも三段落としの滝石組を設け、鱗敷の意匠となっている。こちらでは天端(てんぱ)のある平天石を滝添石としている。天端とは石の上面の平面を意味する。
枯滝石組の奥には二重、三重構成の連山を作っている。よく観察していくと、ほぼ全ての石組が三尊石構成となっている。
手前は一般的な三尊石でああるが、奥には東福寺の三神仙島を思わすような躍動感ある石組がみられる。東福寺は重森三玲によって作庭された作品であり、その意匠を受け継いでいる。
こちらは鶴石組のようにも見える可愛らしい石組であり、三尊石の変形版と考えてよいのだろうか。
室町時代に考案された鱗敷は、私は初めて目にしたが実に印象的であった。水流を表現する手法としては、北方文化博物館 新潟分館や、京都の真如院(撮影禁止)がある。
ロビーではなく食事処に面した空間に作られた庭園であるため、宿泊者以外は庭園の存在に気づかない。
長野で見るべき庭園のひとつといって過言ではない長野ホテル犀北館の重森庭園。庭園にでるためには、レストランを経由する必要があるため、宿泊者でもタイミングによってはガラス越しの見学のみとなる可能性がある。そのため、レストランの始まる前の朝の時間帯に訪問するほうが良いだろう。
長野ホテル犀北館 重森庭園 鳥瞰図 [ 案内図を拡大する ]
○ | 鱗敷の枯滝石組を見られる日本でも貴重な庭園である。3つの滝石組全てに特徴があり、じっくりと見学したい枯山水である。 |
× | 特に見当たらない。 |