正寿院は鎌倉時代(1200)に医王教寺の塔頭寺院として創建されたと伝わる。その後、安土桃山時代(1596)に中興。毎年6月から9月中旬まで2000個を超えるたくさんの風鈴が飾られ「風鈴寺」とも呼ばれる。本堂裏には江戸時代に作庭された「舟形の庭」が残されている。また現在では客殿にある猪目窓による額縁庭園が有名である。
猪目窓とは、猪の目をモチーフにしたいわゆるハート形の窓のことである。全国的には猪目窓のリフレクションを楽しめる教林坊別院 マーチャントミュージアム(滋賀県東近江市)、地蔵院(京都市)が挙げられるが、美しさでは正寿院が随一ではないだろうか。また客殿の天井画も見逃せない。
少し上方向から眺めると、飛石の先に石灯籠を見ることができる。
眺める角度によって猪目窓越しの光景が大きく変わるのも魅力である。
猪目窓のある客殿は桜の木だけは昔からのままであるが、写真に写る枯山水は平成21年(2009)に新たに作庭されたものである。」
蹲踞(つくばい)の手水鉢は花びらを浮かべた「花手水」となっている。SNS映えすることもあり、近年では花手水は多くの寺院で見かけるようになった。
京都市内からの公共交通機関でのアクセスは週末などに限られることもあり、紅葉シーズンでも平日は参拝客は1時間の間に5名ほどであり、静かな環境で観賞できるのが嬉しい。
訪問前までは正寿院は猪目窓がメインだと思っていたが、なんと江戸時代から残されている古庭園があった。写真は「船形の庭」と呼ばれ、左を船首とした船に見えるのが分かるだろうか。
現地の解説によると、この地は古来は海であったことから苔と石が組まれて、船の形に見立てられているとのこと。当初、近年作庭した庭園と想像したが、住職に伺うと江戸時代からのもので、コロナ明け後に整備して公開したとのこと。
この船は正寿院の本尊である観音様が降り立つとされる補陀落山(ふだらくさん)へ出航する様子を表している。
「船形の庭」の全景。右手にも石組を設けている。
三尊石もみられる。
船形の庭を船首方面から撮影。それにしても、この場所は標高290m。かつて海だったというのは驚きだ。といっても、1500万年前の話ではあるが(笑)
本堂からも枯山水を楽しめる。
最後に猪目窓をもう一度。斜めから眺めると緑から赤へのグラデーションを楽しめる。
○ | 猪目窓は美しいのはもちろんのこと、猪目窓のある客殿の枯山水、そして本堂裏の「船形の庭」と、SNS映えだけではない稀有な古庭園も見学できる満足度の高い寺院である。アクセスしにくいロケーションであるが遠征する価値あり。 |
× | 特に見当たらない。 |