臨済宗大本山妙心寺の塔頭寺院である退蔵院は、室町初期(1404年)に創建された妙心寺屈指の古刹。境内には元信の庭、陰陽の庭、余香苑、そして通常非公開の方丈庭園と4つの庭園をもつ妙心寺最大の庭園寺院である。
臨済宗大本山妙心寺は、10万坪に46の寺院を構える広大な敷地であり迷路のような空間だ。そのなかで庭園で有名な寺院といえば退蔵院であり、たびたび書籍でも紹介される。まずは方丈西側にある「元信の庭(もとのぶのにわ)」。室町時代の画家・狩野元信が70歳近くに作庭されたと伝えられる庭である。
「元信の庭」を図解してみる。築山に鶴島。手水鉢を配した鶴島は、私はこれが初めてみるもので案内板を読むまで気づかなかった。池泉中央部には亀島、その奥に枯れ滝石組、蓬莱山を配置している。視点場は撮影地点から右側であり、方丈の西にある「鎖の間」からとなる。ただ「鎖の間」は、年3回の食事付き特別観賞(予約制)のみでしか立ち入りできない。
このため通常、枯滝石組を正面から眺められない。最大の見所である「元信の庭」だけに「鎖の間」の通常公開を切に願う。枯滝石組の上部には観音型の遠山石を据え、栗石で滝の流れを表現している。栗石の扱い方が見事としかいいようがない。
池泉南部を眺める。右下が鶴島の一部であり、正面に石橋、左手の笹塀奥に集団石組がみられる。
枯流に架けられた石橋をズームアップ。石橋は丸みを帯びていて上品さを感じる。周辺の石も同種で纏めているのもセンスを感じるところである。
笹塀奥にある集団石組。
続いて、陰陽の庭へ移動。砂の色が異なる2つの枯山水で構成され、合計15石の石で構成されている。写真は「陰の庭」であり、砂紋が深く力強い。また2種類の刈込みと生け垣により枯山水を囲んでいる。
「陰の庭」には8石の石が据えられている。右上には細い枝がみえるが、こちらは枝垂れ桜であり、桜の花びらが黒系の砂に散った様子も美しい。
こちらは白砂敷きの枯山水「陽の庭」。枝垂れ桜を中心に「陽の庭」と「陰の庭」が向かい合っており、7石あるのを確認できる。
苔島に2石を組み、刈り込み沿いに5石の石を据えている。こちらの砂紋は「陰の庭」と比べると浅めになっている。
続いては、昭和の「小堀遠州」と称えられた作庭家・中根金作(なかね きんさく)による「余香苑(よこうえん)」へ。サツキの大刈込みから滝石組へ繋がりダイナミックな遠近感を作り出している。
滝上部には遠山石を据えている。三段落ちの滝には、途中に平たい栗石が敷かれ「元信の庭」と同じ意匠が使われていることに気づく。焦点距離180mmの望遠レンズで撮影しているが、肉眼では分かりにくいため、スマホで拡大しながら細部を観察してみると良いだろう。サツキの咲く6月に再訪して、華やかな光景を眺めてみたいものだ。
退蔵院案内図 [ 案内図を拡大する ]
○ | 3つの枯山水と、中根金作による池泉庭園を同時に楽しめる。特に「元信の庭」の滝石組の造形が素晴らしい。桜の時期、ツツジの時期(6月)がハイライトであるが、それ以外の時期でも十分に楽しめる。 |
× | 「元信の庭」の視点場となる「鎖の間」が年三回の食事付き特別公開でしか訪問できないため、滝石組を正面から眺められない。 |