臨済宗相国寺派の寺院で、室町時代の1397年に、3代将軍・足利義満(よしみつ)による開基。開山は日本初の作庭家ともいわれる臨済宗の禅僧・夢窓疎石(むそう そうせき)である。金閣寺は昭和30年(1955)に再建され、世界遺産にも登録されている。
3代将軍・足利義満の建てた舎利殿「金閣」があまりにも有名で通称「金閣寺」と呼ばれるが、正式名称は鹿苑寺(ろくおんじ)である。義満の法名「鹿苑院殿」がその名の由来である。世界中から観光客が訪れる鹿苑寺であるが、きらびやかな金閣に目を取られてしまうが、鹿苑寺庭園の魅力は鏡湖池(きょうこち)と後述する鯉魚石(りぎょせき)にある。
まず最初に鏡湖池に配置された岩島や島の見取り図を掲載。見取り図は上が北となっている。View#1から順に順路が設けられ、鏡湖池の西側は通行できない。前述の写真はView#1からの撮影であり定番の撮影ポイントである。 [ 案内図を拡大する ]
まずはView#1から10時の方向を眺めると、左に出島、右に葦原島(あしはらじま)、中央に山型の畠山石を確認できる。葦原島とは本州のことであり鏡湖池で最大の島である。
畠山石を中心に望遠レンズ(焦点距離220mm)で撮影。出島と葦原島の絶妙な距離感により格別な景観を生み出している。舟遊で景観を楽しむとこのようにみえるのだろう。なお羽石のようにもみえる畠山石は、将軍補佐の役職を担っていた有力大名・畠山家から名付けられている。
続いてView#2より撮影。葦原島は視点場である金閣の正面に位置し、不老不死の仙人が住むとされる「蓬莱島」を表現している。
View#3より葦原島を眺めると、松が植樹され、少し傾いた石灯籠がみえる。▼マークにある斜めに据えられた石が細川石で、畠山石同様に有力大名・細川家から名付けられている。赤ラインが三尊石組である。この三尊石組を望遠レンズで撮影してみると・・・
三尊石の手前にもう1石あることが分かる。重森千靑氏の著書「日本の10大庭園」によると、4つめの石はその後の日本庭園でよく見られる技法となり、礼拝石ともいえるし、三尊石組を滝と見立てれば水分石ともいえる。
同じくView#3から鶴島と亀島を望めば、とても美しい意匠の中島であることがわかる。▲マークは九山八海石(くせんはっかいせき)である。手前にある岩島は夜泊石である。九山八海石:古代インドの宇宙観に世界の中心にそびえ立つという巨大な須弥山があり、その須弥山を囲む九つの山と八つの海を表現した石。要は仏が住する清らかな世界・浄土の意味を強調している。
この九山八海石は、将軍・足利義満が中国から運ばせた名石であり、小さいながらも葦原島と並ぶ主景となっている。焦点距離300mmの望遠レンズで撮影してトリミングして、この大きさであるので、肉眼では確認が難しい。石の表面にはいくつものシワがあり、この写真からは分からないが、別角度からみると複雑な形状をしている。月刊京都史跡散策会を参考。
金閣寺の麓にある夜泊石を眺める。写真には写ってないが、さらに右に1石設けられている。4石が南北に整列し、山口県宇部市の宗隣寺 龍心庭と同じような、蓬莱島(葦原島)へ向かう集団船(宝舟ともいう)が、夜のうちに船溜まりに停泊している姿を抽象的に表現したものである。
金閣舎利殿の西側には舟屋がある。鹿苑寺庭園は舟で庭園を眺める池泉舟遊式でもあり、金閣寺から眺める鑑賞式でもあり、苑路から眺める回遊式でもある。ただ現在では苑路から眺めることしかできない。その舟屋の西側には、赤ラインの引いている島が順に出亀島、入亀島である。さらに右奥にある淡路島あわせて、出亀島、入亀島が金閣寺に向かって直線上にあり、それぞれ方丈、壷梁(こりょう)、瀛州(えいしゅう)と仙人の住む島を表現した「三神仙島」となっている。さらに蓬莱島(葦原島)とあわせると、仙人が住む4つの島「四神仙島」である。また、入亀島は金閣寺に向かい、出亀島は金閣寺から離れている姿であり、つまり両亀島は向かい合っている。
赤ラインの引いている島が、左が入亀島、右が淡路島である。西側の苑路が開放されていれば、島が沢山あるエリアをじっくり観賞できるのであるが、望遠レンズや双眼鏡を使わなければ、その造形を味わえないのが残念でならない。
鏡湖池を離れ苑路を進むと、鹿苑寺庭園の2つめの見所である見事な「鯉魚石」の龍門瀑(りゅうもんばく)にたどり着く。鯉魚石とは鯉が滝を登る様子を表現した石である。もちろん鯉が滝を登るようなことはできないが、ひたすら修行を繰り返すという禅の理念を石組で表したのを「龍門瀑(りゅうもんばく)」と呼ぶ。全国数ある鯉魚石のなかで、鹿苑寺の鯉魚石は最も写実的であり美しい。なお龍門瀑は天龍寺 曹源池庭園が有名であるが、望遠鏡などがないと詳細が分かりにくい。一方、鹿苑寺庭園は至近距離で観賞できる。
正面左から撮影すると鯉魚石が斜めになっていることが分かる。かつては、ここまで鏡湖池であり鏡湖池と繋がっていた。殆どの観光客は金閣寺に目を取られてしまっているが、実は鹿苑寺庭園の魅力は鏡湖池と鯉魚石などの極めて高いレベルの日本庭園の造形美にある。
○ | 鏡湖池に多島で表現された神仙蓬莱思想は、日本有数の美しさである。この記事を読んだのちに訪れれば、鹿苑寺庭園のもつ真の魅力を感じられるだろう。 |
× | 苑路西側が開放されておらず、望遠レンズや双眼鏡などがないと、美しい姿を理解するのが難しい。 |