世界遺産の西芳寺は、奈良時代の僧侶・行基(ぎょうき)によって開山。室町初期(1339)に日本初の作庭家ともいわれる夢窓疎石(むそうそせき)によって中興(衰えた寺を復興)。昭和3年より一般公開されるが、昭和30年頃からの京都観光ブームにより苔の荒れが進み、昭和52年より事前予約制となる。これにより1日1回のみの公開となる。平成6年には世界遺産に登録。
往復はがきによる事前申し込み制の西芳寺。(2021年6月より1週間前から前日まではオンライン予約も可能となる)写経後に庭園観賞できるシステムである。写経広間を眺めると、約200~300名枠と思われる。10月の金曜日なので2割ほどの空席があった。写経を30分ほどで書き終え、一番乗りで庭園に向かう。
観音堂を過ぎ階段を下ると、左手の小さな池に大小の石が整然と並ぶ。池に石が整列する様子は「夜泊石(よどまりいし)」と呼ぶことが多い。これは、蓬莱へ向かう集団船(宝舟ともいう)が、夜のうちに船溜まりに停泊している姿を抽象的に表現しており金閣寺や宗隣寺(山口県)にもみられる。ただ、西芳寺庭園では二列に岸辺から岸辺に「くの字」に配置してある。夜泊石だとすると、「くの字」に曲がっているのが不自然である。
少し広角で撮影してみると、このような光景になる。右手の岸辺にはかつて瑠璃殿(写真に家マークを記載)が建っていた。またNHK「奇跡の庭 京都・苔寺(2013/1)」で放映された再現CGなどから、「夜泊石」と呼ばれる西芳寺庭園の石は、瑠璃殿と方丈を繋ぐ廊下の束柱(つかばしら)の礎石とも考えられる。
瑠璃殿と方丈を繋ぐ廊下の束柱の礎石をズームアップ。すると、気になることがある。それは石の大きさが様々なことだ。礎石であれば、一定の大きさとするだろう。このようなところから、昭和の庭園研究家・重森三玲(しげもりみれい)は「夜泊石」として取り上げている。(参考:「日本の10大庭園(著者:重森千靑)」)このような謎に包まれたところも、古庭園の魅力だろう。
瑠璃殿跡から苑路を進むと、注連縄(しめなわ)をかけられた石がみつかる。写真では赤い▲マークをつけている。この石は影向石(ようごいし)と呼ばれている。影向とは神仏がこの世に現ること。西芳寺の近くにある松尾大社の神が下りてきたものとされる。写真には映っていないが左手には遣水がある。上流は段々に組まれた石組であり、このようなことからこの写真は「旧滝口」となる。(参考「名園のみかた(著者:中根金作)」)
旧滝口から苑路を進むと、今度は鶴島が見えてくる。島に植えられた木々が鶴の羽を見立てているのだろうか。
鶴島を超えると、このような2つの橋が架けられた中島にであう。こちらで注目したいのが、赤色の▲マークである三尊石である。
三尊石をズームアップ。一般的な三尊石では中央の主石(中尊石)は、立石のように縦長の石であることが多い。西芳寺庭園では立石ではないため、注意深く観察しないと見落としてしまう。
三尊石のある中島裏手には亀島がみつかる。
苔で覆われた池泉庭園から上段の枯山水庭園へ繋がる門「向上関」をくぐって階段を登っていくと、亀石組がみえてくる。右端の立石が亀頭石である。おそらく作庭当初には亀石組に木は無かっただろう。
亀石組を過ぎると、西芳寺庭園の苑路で最も高い場所にある指東庵に到着。その指東庵の右手にあるのが、西芳寺庭園のハイライトでもある枯滝石組である。分かりやすいように水の流れに赤線を引いてある。左の枯滝石組は手前に2段、その奥に高く滝が組まれた三段滝である。右手にも枯滝石組が鎮座する。また、一般的な白砂や苔による鎌倉時代以降に発展した枯山水(後期式枯山水)と区別する専門用語では、こちらは前期式枯山水に分類される。他には岩手県の平泉にある毛越寺が挙げられる。
上記の写真で左側にある三段滝をズーム。奥に上段の滝を組み、平地を挟んで下段に二段の低い滝が組まれた地形を活かした枯滝石組である。また★マークが鯉魚石(りぎょせき)である。鯉魚石を別方向から拡大すると
このようになる。夢窓疎石が同じく作庭した天龍寺 曹源池庭園の龍へと変化する瞬間を表現した鯉魚石ではなく、鯉が滝を登ろうとしている姿を表現している。本記事には載せられていないが、須弥山石組や座禅石、そして「昭和の小堀遠州」と称えられた作庭家・中根金作が発掘した潭北軒北庭など、注目すべき箇所が多い名庭園である。
西芳寺の案内図 [ 案内図を拡大する ]
○ | 西芳寺庭園(苔寺)は苔に注目しがちだが、作庭時は白砂が敷かれ苔はなかった。長らく廃墟となったことにより苔が育ち現在の姿になった。庭園の下段は池泉庭園、上段は枯山水という地割りの素晴らしさ、そして夜泊石説や雄大な枯滝石組など、古庭園の魅力を思う存分感じられる名庭園である。 |
× | 繰り返し訪れたい庭園であるが、参拝冥加料4,000円以上のため気軽に訪れにくい。 |