山水園

山口市は常栄寺雪舟庭園や国宝 瑠璃光寺五重塔に注目が集まるなかで、あまり知られていない名園のひとつに山水園がある。温泉旅館ではあるが、宿泊者以外の庭園見学も有料で受け付けているのがありがたい。玄関で受け付けを済ませると、いばらき門に回るように言われ、中から門を開けてくれる。1枚目の写真がその「いばらき門」であり、なんと2階が茶室になっている珍しい構造だ。いばらき門をくぐると、まず見えてくるのが枯山水である。

白砂の敷かれた庭園には、6つの石を配しており、松などを植樹した島で構成されている。橋の上からや、下がったところに露地からなど三方向から違った角度で楽しめる。橋の奥には堀があり、枯山水と大きな水源が隣接しているのも面白い。

いばらき門の傍には、三角灯籠と蹲居（つくばい）がある。この三角灯籠は、日本庭園の最高峰といわれる桂離宮(京都)の笑意軒にある三角灯籠を模した物で、笠、火袋、仲代、足が全て三角形になっている。蹲居：隣接する茶室へ向かう際など、身を清めるために造られていることが多い。

枯山水を抜け露地へ足を進めると、今度は竿の部分が地中に埋め込んで据えられた「生込み灯籠」がみつかる。さらに竿の部分をよくみると、なにか彫られている。おそらく「切支丹灯籠（きりしたんとうろう）」であろう。切支丹灯籠とは江戸時代初期にキリスト教禁止令のなか密かに信仰を続けていた隠れキリシタンの信仰物といわれる石灯籠である。このように山水庭園では、いくつもの石灯籠を見られるのも特徴である。

中門をくぐって中露地へ。ここでは様々な意匠の延段や敷石や飛石に注目したい。

栗石が敷き詰められた枯流れには石橋が架けられ、この先は池泉庭園へと繋がる。

本館に面した池泉庭園は大正時代に作庭されたもので、作庭家は不明である。2017年にはクラフドファンドで修復修繕を行っている。

庭園東部には桂離宮の四ツ腰掛（卍字亭）を模した四阿（あずまや）がある。ここで注目したいのが、四阿の屋根から滴る雨の処理である。雨が集まって落ちるポイントに、平石を挟んで黒く横長に伸びる模様が分かるだろうか。

近づいて撮影してみると、池中に炭を埋め込んでいるのが分かる。これは砌（みぎり）と呼ばれ、雨が跳ねたり水たまりになったりしないように炭に染みこませるという実用性と、漆黒の炭を使うことによって景観を引き締めるデザイン性を両立した見事な意匠だ。このような意匠は山水園以外にも時折お目にかかる。

池泉庭園には水の流れる滝石組があり、傍には岩灯籠がみられる。

さらに歩を進めると、枯滝石組らしき集団石組を確認できる。

石橋から正面で撮影すると、角の尖った石で組まれている。常栄寺　雪舟庭（山口市）の龍門瀑にも似た造りにもみえるが、こちらには鯉魚石と断定できる石を確認できなかった。

池泉庭園西部には、先ほどの滝とは異なる滝からの遣り水が造られ、2本の遣り水が池泉に流れ込むことで、美しい表情を造り出している。庭園パンフレットには、見所や解説が詳しく記載されており、パンフレットで景物を確認しながら散策を楽しみたい。

山水園　庭園パンフレット [ 案内図を拡大する ]