標高700mの地点に「日光発祥の地」とも呼ばれている古峯神社がある。創建は奈良時代であり、神庭として「古峯園」が昭和52年(1977)に作庭された。近年は天狗御朱印としても有名。
鹿沼ICから車で45分と山深い場所にある回遊式池泉庭園の古峯園。栃木県は名園が少ないエリアであるが、ここには昭和に作庭された比較的近年のものではあるが、十分に見応えのある庭園だ。
山並みに囲まれたロケーションを最大に活かした借景が、古峯園の魅力のひとつ。
池泉の水を美しく魅せる技法である洲浜(すはま)越しには、亀の形をかたどった亀島が造られている。
立派な松が植樹された亀島、その奥には滝がみえる。
焦点距離200mmの望遠レンズで滝石組を撮影してみる。この画角が古峯園で最も美しいと感じる。右手に亀島の亀尾石(きびいし)、左手に護岸石組により入江のような景観を演出し、奥に配した滝石組の存在感を高めている。
休憩所「静峯亭」にて額縁庭園を撮影。大変眺めのよい東屋であり、こちらでは珈琲を注文できる。
苑路を散策して滝に近づく。こちらは「峯の滝」と呼ばれる多段落としの滝石組である。また▲マークの少し斜めに力強く置かれた石が、鯉が滝を登っているように見立てた鯉魚石(りぎょせき)となる。つまり、この滝石組は鯉が滝を登るという修行を繰り返すという禅の理念を石組で表した「龍門瀑(りゅうもんばく)」である。詳しくは龍門瀑の代表格である天龍寺 曹源池庭園(京都)を参照してほしい。
「峯の滝」から坂を登っていくと、茶室「翠滴」がみえてくる。
茶室「翠滴」前にある敷石は、切石と自然石をミックスした「寄せ石敷き」となっている。さらに説明すると、切石のみで構成された延段を「真」、自然石のみを「草」、ミックスしたのを「行」と表現する。これは書道の「楷書(真書)」「草書」「行書」に習うものであり、写真の延段は「行の延段」と言い表せる。
「寄せ石敷き」の先には、水を流している石造りの手水鉢(ちょうずばち)がある。手水鉢は、隣接する茶室へ向かう際など、身を清めるため造られることが多い。A、B、Cの石の表面は平であり、これには役割がある。Aは手燭石(夜の茶会で使う手燭(てしょく)という明かりを置く石)、Bは湯桶石(茶室で使う湯桶を置く石)、そして両手が空いた状態でCに本人が立ち手を清める。この4石をまとめて蹲居(つくばい)と呼ぶ。
石垣の上から亀島を見下ろす。左側にある巨石が亀の頭である亀頭石となる。
苑路沿いの護岸石組に見えてみたが、上から眺めると龍に見立てた臥龍石組(がりゅう)となっている。青線が臥龍石組であり、左側の突き出た巨石が龍頭石(りゅうずいし)、サツキの刈り込みを胴体として右端が龍尾石(りゅうびいし)となる。サツキの刈り込みの下にある石組に一つおきに凹凸が付けられているのも興味深いところである。臥龍石組と近いものであれば、大阪の慶沢園でもみられる。
最後に亀島を撮影。ここから眺めると亀脚石(ききゃくせき)もはっきりと認識できる。紅葉時期は鮮やかな庭園を愉しめるようで、季節を変えて訪れてみたいものだ。なお今回は4月20日に訪問したが、桜はまだ満開前だった。満開はGW時期だろうか。
○ | 借景を活かした雄大な池泉庭園。また池泉越しにみる滝石組の龍門瀑は特に美しい。 |
× | 特に見当たらない。 |