定勝寺は室町前期(1387-1388)に創建した臨済宗妙心寺の寺院。興禅寺、長福寺木曽と並ぶ木曽三大寺のひとつ。庭園は平成5年(1993)に岡谷市出身の作庭家・小口基實(おぐち もとみ)によって作庭された。
鶴亀蓬莱庭園は実に多くの古庭園の要素を含んでいるので図解していこう。まずは出島に設けた岬灯篭に、石橋の奥には亀島を配している。そして汀から亀島に向かって、直線に並べられた岩島は夜泊石(よどまりせき)と呼ばれる。
別角度から夜泊石を撮影する。夜泊石とは、不老不死の妙薬があるとされる蓬莱山へ向かう集団船(宝舟ともいう)が、夜のうちに船溜まりに停泊している姿を抽象的に表現したものといわれる。夜泊石の代表的なものでは山口県宇部市の宗隣寺 龍心庭が挙げられるが、枯山水で表現している例は初めて見た。また直線の先には亀島の中央にある岩に向かっており、これが蓬莱山となっている。
亀島を別角度から撮影。亀島の甲羅に背負った石は中心石と呼ばれ、蓬莱山に見立てていることが多い。先ほどの夜泊石に見立てた宝船は、この蓬莱山へ不老不死の妙薬を取りに向かっているというイメージになっている。亀島には亀の頭となる亀頭石と尻尾となる亀尾石があり、亀は枯滝石組に向かっている。
右手に亀尾石を捕らえた撮影した亀島。前足(亀脚石)を水面より持ち上げて滝に向かっている勢いある意匠となっている。
高さを低くして架けた石橋の奥に枯滝石組。右手の岬灯篭があり、遠近感により間延びしない。
枯滝石組は三尊石を中心とした構図になっており、鯉魚石(りぎょせき)を据えているのが分かるだろうか。別角度から撮影すると、
矢印の立石が鯉魚石である。鯉魚石とは鯉が滝を登る様子を表現した石である。もちろん鯉が滝を登るようなことはできないが、ひたすら修行を繰り返すという禅の理念を石組で表したのを「龍門瀑(りゅうもんばく)」と呼ぶ。龍門瀑では金閣寺(鹿苑寺)が写実的で分かりやすく美しい。
洲浜の先に岬灯篭という構成は、桂離宮でみられる意匠を取り入れたものだ。
鶴島や鶴石組は抽象的で分かりにくいことが多いが、こちらは具象的な鶴島である。解説によると蓬莱山の意味を持つような折鶴をイメージしているとのこと。
石庭には舟石のような長石を据えたシンプルな構成。
本堂に入り額縁庭園を愉しみながら休息。サービスエリアで車中泊をして朝6時から行動していたので、さすがに14時頃には疲れが。
縁側からは池泉庭園を眺められる。鶴亀蓬莱庭園は、桃山末期から江戸時代初期の様式を取り入れた平成に作庭された新しい庭園。新しくて古い庭園である。
○ | 古庭園の要素が随所に見られ知られざる穴場的な庭園である。 |
× | 鶴亀蓬莱庭園の観賞できる導線が直線的で回遊できないため、枯滝石組や亀島の造形が確認しにくい。 |