桂離宮、足立美術館の違いはどこにあるか。
日本一の庭園はどこであるか?この質問に「桂離宮」と私はいつも答えている。一方、米国の日本庭園専門誌「Journal of Japanese Gardening」では20年以上連続で「足立美術館(島根県安来市)」が1位となっている。そして20年以上「桂離宮」が2位となっている。
多くの日本庭園を観賞してきた方ほど、本ランキングに疑問をもち「足立美術館は確かに美しいが、美しすぎるが故に魅力を感じない。」という意見もあるほどだ。
私が両庭園の違いを述べるのであれば「どちらも庭園の”美”という観点では最高峰である。ただこの”美”は桂離宮では苑路散策にて感動が途切れことなく連続する地割りの完璧さからきており、足立美術館は屋内からどこを観賞しても美が保たれているメンテナンスの完璧さから感じるもの。」と答えるだろう。本記事ではこの点に注目しつつ両者の違いを述べていく。
美しさと数寄屋の要素で構成されたランキング
両庭園の違いを語るまえに、日本庭園専門誌「Journal of Japanese Gardening」のランキング方法について説明しておく必要がある。本誌は1998年に米国在住のダグラス・ロス氏が創刊。ウィキペディアによると日本庭園のランキングは本誌に寄稿している30名ほどの庭園・造園分野の各国の大学教授が票を投じている。
2023年のランキングは1位「足立美術館」、2位「桂離宮」、3位「山本亭(東京)」、4位「旅館 皆美館(松江)」、5位「庭園の宿 石庭(広島県廿日市市)」、6位「松田屋ホテル(山口市)」、7位「玉堂美術館(東京)」、8位「二条城 二之丸庭園」、9位「養活館庭園(福井市)」、10位「三景園(広島県三原市)」となっている。
多くの日本庭園を観賞してきた方ほど、違和感があるのではないだろうか。例えば山本亭(東京)が3位(ほぼ毎年5位以内)と上位ながらも、寺院庭園は上位にはランクインされていないことに。
本ランキングは日本庭園、あるいは「数寄屋生活空間:庭と家が一体となった日本的な生活環境」を選出する「しおさいプロジェクト」によって選出されている。
余談だが「しおさい」とは本誌を創刊したダグラス・ロス氏が、日本で暮らしていたときに自宅近くの葉山しおさい公園(神奈川県)に感銘をうけ、知られざる名園を浮かび上がらせようと立ち上げたものだ。
話を戻すと本ランキングは日本庭園の美しさだけではなく、「数寄屋生活空間」という要素が含まれることで、旅館や料亭に付随する庭園が多くランクインされる結果となっている。
また各国の大学教授によって投票されていることから、日本各地の庭園を観賞しているとは考えにくく、かつて訪問した庭園の印象で毎年投票されているケースが多いのではないだろうか。その結果、毎年大きな変化がみられないと推測する。
伝統の桂離宮、徹底管理の足立美術館
続いて桂離宮と足立美術館の違いについて述べていく。桂離宮は後水尾上皇(ごみずのお)の叔父にあたる八条宮 智仁親王(ともひと)によって造営され江戸初期(1622)に現在の姿となった。足立美術館は足立全康(ぜんこう)が横山大観のコレクションをもとに昭和(1970)に完成。庭園は中根金作や、オーナーである足立家によって手をいれている。
桂離宮は宮内庁管轄ということもあり、伝統の技術が継承されており、例えば枝を剪定する際に「透かし」をすることで自然な造形に仕上げる「御所透かし」といった技法が使われ、自然に忠実な縮景を造りだしている。
桂離宮では自然を生かした生垣「桂垣」にも注目したい。「桂垣」はハチクという種類の竹を土から生えているまま折り曲げて、下地となる生垣に編みつけた”まさに”生垣である。桂垣はガイドと一緒に訪れるエリアではなく、桂離宮の東側にある自動車が走行する道路沿いにある。
一方、足立美術館は開園前に落ち葉ひとつ残さない徹底管理。足立美術館の白砂は出雲産の横田砂を利用しているが年1回砂を洗浄する「砂洗い」を行うほど。また刈込み常時美しい姿を保つようにメンテナンスされている。
足立美術館では借景にも注目したい。借景の美しさを永続的なものにするため山を所有し、なんと滝を造っているのである。写真の右上にあるのが人工滝であり、借景まで含めて徹底管理している。
参観の桂離宮、撮影の足立美術館
桂離宮は職員のガイドを受けながら1時間ほどかけて、ゆっくりと苑内を巡ります。途中6ヶ所ほど立ち寄り詳しい説明を受けるため知識がなくとも桂離宮の歴史と伝統を理解できる。一方、基本20名ほどの単位で巡り移動中は立ち止まることが難しいため、ゆっくりと撮影できないところが多い。
足立美術館は有料の音声ガイドの貸し出しはあるが、ガイド人はおらず自由見学となっている。一方、混雑しながらも庭園の撮影は行いやすい。足立美術館を代表する額縁庭園の撮影ポイントなどもある。特に苑内を散策できないため、庭園を撮影すると基本的には人の映り込みはなく、徹底管理された庭園を思う存分眺めてくださいというスタイルだ。
当日参加が穴場な桂離宮、フライング入場の足立美術館
どちらも人気の庭園であるために、桂離宮は予約が取りにくく、足立美術館は混雑している。本論から外れるが、両庭園を訪問するちょっとした裏技をご紹介しよう。
桂離宮はオンライン若しくは、往復はがきでの予約申込みができるが、かなり先の日程まで埋まっており、2週間を切るとほぼ定員に達している。しかし桂離宮は朝8時40分から参加時間を指定した当日券を配布している。
これを聞くと朝から並ぶのは大変であると思いがちであるが、意外に空いている。2023年11月17日(金)の午後に訪問したときには、訪問時間後の全時間帯に空き枠があった。係の方に伺うと紅葉ハイシーズン、GWやお盆などのハイシーズンを除けば、土日でも朝から並ばずとも当日参加できることが多いとのこと。
ただ桂離宮は公共交通でのアクセスが悪い。阪急・桂駅から徒歩20分、市バス・桂離宮前から徒歩10分であるため、当日券目当てで訪問して獲得できなかったとき、周辺に別の観光ポイントもなくダメージが大きい。しかし桂離宮の駐車場は無料開放されているので、クルマで京都を訪れることがあるようなときであれば気軽に当日券にチャレンジできる。
続いて足立美術館入園についての裏技を説明しよう。こちらの庭園の島根県という立地ながらも外国人が多く、朝から多くの観光バスが停車していた。私も朝イチ入園を狙って駐車場で待機していたが、開園15分前ぐらいに到着すると既に入園が開始していた。
どうも開園30分ぐらい前から入園できるようになっている。その時間帯はまだ庭園掃除中の可能性もあるが、それでもフライング入園は人が非常に少なくお薦めだ。入園したら額縁庭園を撮影できる2ヶ所を先に巡っておくことを強くお薦めする。
ひとつめは先ほど写真を掲載した額縁庭園。もうひとつは掛け軸のような1枚を撮影できる「生の額絵」である。次の写真が「生の額絵」であるが、こちらに到着したときには、掛け軸にある鑑賞ポイントの次々の観光客が訪れて、人を入れずに撮影することはできなかった。
自然と一体化して愉しむ桂離宮、絵画のような足立美術館。
桂離宮は広大な池泉回遊式庭園であり、通常であれば規模が大きくなるほど、どうしても間延びした空間が存在するものであるが、桂離宮にはそれを感じない。歩を進めていくたびに景観が変わっていき、1時間の参観があっというまに感じるほど景観に魅了されてしまう。これは庭園の設計図ともいえる地割りの素晴らしさによるものであり、これこそが桂離宮が日本庭園の最高峰と感じる理由だ。
一方、足立美術館は施設から眺める庭園を想定したもので、園内の美術品を観賞するように、完璧な日本庭園を美術として観賞している感じである。このように両庭園は同じ基準で比べることのできない庭園であるが、いずれも日本庭園の美しさとしては最高峰であり、この2ヶ所の庭園を知らずして庭園は語れないだろう。
本記事では割愛してあるが、各庭園の見どころを理解しながら現地で見比べてみることで庭園の理解が深まり、お手本のような庭園である。当サイト「庭園ガイド」では見どころをできるだけ分かりやすく説明しているので、訪問前に予習しておくと当日の感動はより大きくなるだろう。
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